執着王子と聖なる姫
「ごめんね、レベッカ」
「悪いのは私。MEIJIは何も悪くない」
「そうはいかないよ。俺は大人なんだから」

こうしていると、この腕の中から離したくなくなってしまう。だから危ないのだ。と、メーシーは再び自分を制した。

「麻理子を泣かせるわけにはいかないんだ」
「わかってる。MEIJIはマリコを愛してるから」
「そう、愛してるんだよ。だから離したくない」

恥ずかしげもなくさらりと言ってのけるあたり、やはりメーシーも立派な嫁バカの一員で。それに頭を抱えたくなることもあるけれど、それが愛斗の自慢だったりもする。

「よぉ平気な顔してそんな恥ずかしいこと言えるわ」
「そこ、黙ってようか。ひとの女に手を出した元・鬼畜は」
「うわっ!最悪や!お前の親父最悪やぞ、愛斗!」
「まぁ、そんなもんっすよ。諦めてください、ハルさん」

愛斗にまであしらわれ、晴人はとうとうヘソを曲げてドスッとソファに腰を下ろした。もう頼まれても喋らない!と、腕組みをしたままふくれっ面の傍観者を決め込む。

それを最後まで見届けたメーシーは、レベッカの顔を上に向けさせ、そっと頬を撫ぜた。

「俺は麻理子を愛してる。マナも、レイも愛してる。だから失いたくないんだ」
「わかってる」
「でも、生徒として、事務所の仲間としてなら付き合っていける」
「ここに…いてもいいの?」
「勿論だよ。マナは君を必要としてる。俺達だって、君を必要としてる」

何て都合の良い話だ。とは思うものの、愛斗とて下手に口を挟むわけにはいかない。メーシーを怒らせたら怖いということを一番よく知っているのは、誰より自分なのだから。

「せっかく日本に来たんだ。君の居場所はここだよ」
「居場…所」
「そう。ここは君の居場所だ。一人暮らしが寂しいなら、家に遊びに来ればいい。麻理子もレイも歓迎するよ」
「私…邪魔じゃない?」
「言ったろ?俺達は君を必要としてるって。その言葉に嘘はないよ」

ポンッと頭を押され、レベッカはそのままメーシーの胸に頭を預ける。それと同時にギュッと抱き締められ、息苦しさと胸の痛みで余計に涙の量が増えた。

「モデルになるなら、俺が君をNo.1にしてあげるよ」
「ホントに…?」
「勿論さ。何たって俺は、あのわがまま放題の「MARI」をずっと担当してたんだからね」
「MARI…」
「俺達のチームは、JAG内でもトップクラスだ」
「モデル…やろうかな」

メーシーの腕の中で揺らぐレベッカと、グッと拳を握り締めてツッコミを耐える晴人。そして、呆れて何も言えない愛斗。

優しげな笑みを作るメーシーをジトリと見ながら、愛斗はレベッカの腕を引いた。
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