執着王子と聖なる姫
「おー!メーシーそっくりになったなー、愛斗!」

いつか聞いたようなそんな台詞と共に、おじさんは立ち上がって俺の両肩を掴む。うん。結構力一杯。

「え?誰っすか」
「覚えてないかー。そりゃそうやわな。はははっ」

陽気なそのおじさんは、まだ濡れたままの俺の髪をわしゃわしゃと撫でた。

いや、撫で回した。朝からとんだ襲撃だ。

「おはようございます、マナ」
「あ?おぉ、good-morning」

おかげさまで、ちょこんとソファに座っていたセナに気付くのが遅れた。いや、存在感が無さ過ぎる。色んな意味で透明な奴だった。

「けーちゃんです。はるの親友です」
「ハルさんの?」
「はい。はるの親友で、ちーちゃんのお兄ちゃんです」
「ふふっ。よく出来ました、セナちゃん」

両手でグラスを傾けるセナの頭を、父が嬉しそうに撫でている。これは…妹が見たら発狂ものだ。

「あかんで、メーシー。セナは俺のやから」
「ケイ坊のなの?王子のじゃなくて?」
「セナはけーちゃんと結婚するんやもんなー?」
「それは無理かと思います。けーちゃんには、奥さんとたっちゃんがいます。それに、セナははるのではありません」
「これはこれは失礼しました」
「可愛いなー、セナは」

今の会話のどこにそんな「可愛いポイント」があったのだろう。俺にはよくわからない。

けれど、このおじさんもどうやら両親の昔馴染みだろうことはわかった。

「ケイ坊は俺とママの友達だよ」
「だろうな」
「よろしくなー、愛斗。莉良は?」
「妹はシャワー浴びてます」
「そっかそっかー。莉良はマリちゃんそっくりなんやろ?」
「そうなんだよ。性格まできっちり麻理子似だよ」
「あちゃー。そりゃ大変」
「ちょっと!それどうゆう意味よ、ケイ!」
「あははー」
「あははじゃないわよ!」

どこに隠れていたのか、突然顔を出した母にケイさんは苦笑いだ。よく見ると、いつになくバッチリメイクが施されているではないか。これはきっと父がやったに違いない。さすがプロだ。

「さっさと食べちゃいなさい。レイは?」
「まだシャワー浴びてるだろ」

俺の言葉に、母が叫ぶ。リビングの扉を開いて「hurry up!」と。何をそんなに急かす必要があるのだろうか。いつもよりも随分と早い起床だというのに。
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