執着王子と聖なる姫
「お前いつまで噛んでんの?早く飲み込めよ」

白い喉を、散々噛み砕かれただろうブロッコリーがゴクリと下りて行く。よく噛んだ方が良いとは聞くけれど、少しばかり咀嚼回数が多過ぎやしないだろうか。

「よく噛まないと野菜は甘くなりません」
「何お前、野菜嫌いなの?」
「ブロッコリーが嫌いなだけです」

しかめっ面にオレンジジュースを差し出すと、目が輝いた。

勿体無い。
こうしていれば可愛らしいと思うのに。

「好き嫌いしてたら大きくなれねーよ?」
「関係無いとはるが言ってました」
「根拠は?ちゃんと調べた結果?」
「それは…」
「ちゃんと調べてから言えー?野菜には、ビタミンやら何やらの成長に必要な栄養素が入ってんだっての。だからお前もちゃんと食え!」

ビシッと指差すと、斜め向いに腰掛けてブロッコリーを避けていた妹の肩がビクリと揺れる。

「好き嫌いなんて誰にだってあるわよ!」
「俺は女の好き嫌いはあっても、食い物の好き嫌いは無いね」
「くっ…」
「そんなだから育たなきゃなんねーとこが育たねーんだよ。ごちそうさま」

食器を片付け、リビングを後にする。いつまでもダラダラと付き合ってはいられないのだ。俺は妹と違って学校へ行かなければならないのだから。


「ったく…何なんだよ、アイツら」


吐き出した言葉は、リビングで騒ぐ大人達の声に掻き消された。

俺の記憶が正しければ、両親の親友とも言えるべき人は、この人で最後だ。もうこれ以上の襲撃が無いことを願いつつ制服に着替え、ちょこんと大人しく座っていたセナを連れて家を出た。

少し早めの出発だけれど、あの中で揉みくちゃにされるよりは良い。
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