執着王子と聖なる姫
空を見上げながら歩く俺の後ろを、ちょこちょことセナが着いて来る。

頬を撫ぜる風が、少し湿っぽい。梅雨明けはまだだろうか。
日本の夏は、暑さがべったりと纏わり付く気がする。

「マナ!マナ、待ってください!」
「おせーよ。早く歩けー?」
「足の長さを考慮してください。日本人は足が短いというデータがあります。セナはおそらくその典型です」
「oh,sorry.」

ピタリと足を止めると、ぼふっと背中に追突。勿論、セナが。

「痛いです」
「てか、お前、何か勘違いしてね?」
「勘違いですか?何でしょう」
「俺、日本人だけど」

あれ?と首が傾げられる。じっと俺を見上げ、コクリと頷くセナ。

「失礼しました。あまりに綺麗な瞳の色だったので、違うと思い込んでました」

予想外の言葉に戸惑ったのは俺。

「嫌でしたか?瞳のことを言われるのは。配慮が足りませんでしたか?」
「いや、いいよ別に」

くしゃりと頭を撫でると、頬が膨れた。羨ましいくらい真っ黒な髪が、さらりと風に靡く。

「セナはもう高校生です。小さい子ではありません」
「何か…変な奴だな、お前」
「お前ではありません。セナです」

手を取って、再び歩く。今度は「足の長さ」とやらを考慮して、なるべくゆっくりと。

「メーシーとマリちゃんも日本人ですか?」
「ん?日本人だけど」
「どうしてでしょうね」
「目、か?」
「はい」

こんなにも堂々と問われれば、逆に気持ちが良い。クラスの奴らもきっと思っている。口に出さないだけで。

「さぁな」
「不思議ですね、遺伝子という物は」
「だな」
「セナの瞳は、ちーちゃんと同じです。目の形も。マナは半分だけメーシーと同じなんですね」
「あぁ…これね」

日本に戻ってから、母は右目だけコンタクトを着けるようになった。俺も執拗に勧められたけれど、面倒臭いからという理由で断り続けた。
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