執着王子と聖なる姫
「これはな、マリーからの遺伝」
「ん?マリちゃんは違います。マリちゃんの瞳はそんな色はしてません」
「してるさ。あれはコンタクト」
「そうなんですか?勿体ない…」
「勿体ない?」
「はい。とっても綺麗ですよ、その瞳。セナは好きです」

俺の瞳を好きだと言ってくれたのは、父だけだった。母はいつも申し訳なさそうにしていたし、他の人はそれに触れさえしなかった。


「やっぱお前…変な奴」


日差しがやけに目に染みる。だからだろう。きっとそうだ。色素が薄い分、俺の右目は光に弱い。

「どうして泣くんですか?」
「泣いてねーよ」
「泣いてますよ?右目から涙が出てます」

ゴソゴソとポケットを探り、淡いピンク色のハンカチが差し出された。

あぁ、そうだ。セナにはこんな色がよく似合う。さすがハルさんだ。

「お前ね、」
「セナです!」

目を擦ろうとした手を取られ、ハンカチが押し付けられる。まったく…頑固な女だ。

「…セナ」
「はい」
「男が泣いてる時は見て見ぬフリするもんだろ」
「そうなんですか?はるはわんわん泣きますよ?」
「そうなんです。ハルさんは特別」
「そうですか。覚えておきます」

コクリと頷く頭をもう一度撫で、再度止まってしまった足を進める。また遅刻したら、今度は言い訳に困る。

「セナは…好きか?」
「何をですか?主語が無いとわかりません」
「俺の…目」
「さっき好きだと言いました。聞こえませんでしたか?」
「そっか。そだな」

きっと、十分な愛情を注いでもらったのだろう。ハルさんからも、ちーちゃんからも。だからこんなにも素直に育った。羨ましい限りだ。

「マナはその瞳が嫌いですか?」

握った手に、ギュッと力が込められる。不安げな瞳が、ゆらりと揺れた。
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