執着王子と聖なる姫
けれどセナは、泣くどころかじっと真っ直ぐに俺を見上げていて。

正直参った。我が家にはいないタイプだ。

と言うか、まず我が家には泣いてワガママを言う女しかいないので、それ以前の問題だけれど。

「悪かったよ。sorry.」

一応謝ったものの、再び歩き始めたセナは、一向に機嫌を直してくれそうな気配が無い。それどころか、ちょこちょこと足を動かして俺の前を歩く始末。

困り果てた俺は、電車の中で最終手段を取った。

「俺が悪かった。ちゃんと話すから機嫌直せよ。な?」

後ろから腰を引き寄せ、耳元で甘い声を出す。こうすれば、大概の女は機嫌を直してくれる。そう、大概の女は。

「いつですか?いつかはダメです。不確かな約束は、破られる可能性が高いです」

そこに当て嵌まらない女。それがコイツ、三木聖奈だ。

「…そのうち」
「それもダメです。はるはそう言っていつも約束を破ります」
「それは…」
「セナは知ってます。大人はそうやって逃げるんです」
「お前…案外ちゃんと知ってんのな」

もっとこう…世間知らずの天然キャラだと思っていた。少し変わっているけれど、それも世間知らずが故だと。愛されて育ったが故の天然。それを望んでいたかもしれない。

「それでは誤魔化されません。セナはちーちゃんとは違います」

なるほど。母親を見て学んだというわけか。なかなか賢い娘だ。うちの残念な妹に少しくらいその賢さを分けてやってほしい。

「話すよ、ちゃんと」
「いつですか?」
「いつかは…約束出来ねーけど、ちゃんと話す」
「わかりました。待ちます」

意外とあっさり承諾され、拍子抜けだ。何だ、この押したり引いたりが難しい生き物は。
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