執着王子と聖なる姫
教室へ入ると、一瞬辺りが静まり返る。毎朝のことなのでもう慣れはしたけれど、正直気分の良いものではない。それでもこの右目を隠さないのは、ちょっとした意地だ。

「おはよう、佐野君」
「hi,Miss.Kimoto.」

窓際の最後列に席を与えられた俺の隣には、木元という女が座っている。

毎朝こうして挨拶を交わし、古典や漢文などの少し理解し難い授業の時に助け舟を出してくれる。その代わり、英語の授業では俺が助け舟を出してやる。ギブアンドテイクの関係だ。

「今朝は一人じゃなかったね」
「ん?」

ぺたりと机に胸を押し付け、彼女はにっこりと笑う。

国が違えど変わらない。どこにでも居るのだ、こんな風に男を誘うような視線を寄越す女は。

「気になる?」
「噂になってたよ」
「ん?」
「あの辺で。カワイー女の子と登校してたって。妹?」

指された教室の入り口辺りには、何人かの女の子が集まってコソコソと話している。わかり易いことに、俺をチラチラと見ながら。

こうまでわかり易くしてくれると、こっちも有り難いというものだ。

「あれは妹じゃないよ。俺の妹は駅二つ向こうの高校」
「あ、妹いるんだ。皆、佐野君のことが気になるみたい」
「だったら話しかけてくればいいのに。邪険にしたりしないよ?俺フェミニストだし」
「やっぱ気を遣うんじゃない?」
「編入生だから?」
「佐野君、カッコイイから」

うふふ。と彼女は笑う。あぁ、誘われてる。

そんなことを思いながら頬杖を付いた時だった。
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