執着王子と聖なる姫
「hey!Mana!」


そんなことをして遊んでいた俺の耳に、聞き慣れた澄んだ声が届く。途端に教室がざわついた。カツカツと近付いて来るヒールの音に恐る恐る体を起こすと、カラフルなワンピースの裾が揺れた。

「What's!?何やってんだよ、お前!」
「ホント悪い口!メーシーに言い付けてやるから!」

頬を抓みながら唇を尖らせているのは、我が家の痛い人物代表だ。俺の目がおかしくなっていなければ、目の前にバッチリメイクの母…と言うよりも、元トップモデルの「MARI」が居る。

「携帯忘れたから届けに来てあげたんでしょ。thank me」
「…thanks」
「not at all」

満足げに笑う母に、教室のざわめきが大きくなる。いたたまれないのは、息子である俺の方だ。騒がれている本人は、手を腰に当ててポーズを決めている。

「入って平気なのかよ」
「ん?佐野愛斗の母ですって言ったら、すんなり入れてくれたわよ?」
「ホントかよ…」

うちの母は誰に対しても強引だ。それは十二分に理解している。

でなければ、俺は今頃NYでスクールライフを満喫していることだろう。

「佐野君の…お母さん?」
「え?あぁ、うん」
「誰?」
「見ればわかるだろ?クラスメイトだよ」
「あっ、それもそうね。nice to meet you」
「初めまして。お母さん、綺麗な人ね」
「まぁ…一応元トップモデルだから」
「あら、正直な子」

お世辞だよ!と言いたいところだけれど、事実なので否定のしようがない。うちの母親は綺麗だ。それは認める。

が、


「相変わらず痛いねー、お前は。用が済んだらさっさと帰れー?」


俺を覗き込んでいた額を叩くと、ペシンと小気味良い音が鳴った。にも関わらず、母は何だか上機嫌だ。
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