執着王子と聖なる姫

昼休み、今朝声を掛けて来た二人と集まって弁当を広げていた俺の元に、とある人物がやって来た。

クラスの中でも明らかに浮いているその人物とは、一度も言葉を交わしたことが無い。

にも関わらず彼は、ニヤリと笑って俺にこう言った。


「お前、三木聖奈の何？」


不躾にも程があると思う。いくら男同士と言えど、初めて掛ける言葉がそんな言葉とは如何なものだろうか。

箸を止めて反射的に眉根を寄せると、じっと相手を見据える。これで大概は怯んで引いてくれるのだ。

けれど、どうしたことか彼は余計に笑みを濃くした。

「聖奈がどうしたって？」
「今朝喋ってただろ？」
「だから？」

確か…新見龍二だったか？と、いつか女の子達が口にしていた名前を思い出した。

細い眉に鋭い目、薄い唇。
まぁ、一言で言えばクールな顔立ちをしている。

編入して二週間が経つけれど、一度として誰かと会話をしている場面を見たことがない。

そんな人物に声を掛けられた俺の周りからは、蜘蛛の子を散らすかの如く人がいなくなった。俺がいったい何をしたと言うのだろう。

「三木聖奈に手ぇ出すな」
「へぇ」
「下手に手ぇ出したら痛い目見ることになんぞ」
「痛い目って…例えば？」

不良とでも言えば良いのだろうか。それもそれで違う気がしなくもないけれど、まぁそうゆうことにしてしまおう。何だか面倒くさい。

ガンッと机に拳が押し付けられ、箸が飛んだ。それだけで女の子達はキャーキャーと悲鳴を上げている。

けれど俺自身は、冷静そのものだった。一つため息をついてそれを拾い上げ、ゆっくりと席を立つ。腕を掴まれたけれど、何だか余計に面倒なことになりそうだったので、放していただくことにした。実に賢い選択だと思う。

「let me go.」
「嫌だね」
「ガキかよ」

残念ながら、この程度ならば絡まれ慣れている。本当に残念な話だけれど。

日本人だというのに天然の茶髪と褐色の瞳を持って生まれてしまえば、図らずもこうした事態に見舞われることは多々ある。まぁ、俺の場合褐色なのは右目だけだけれど。