執着王子と聖なる姫
「食う?どうぞ」

口に入れてやると、セナの頬がモグモグしながら緩んだ。

「美味いか?そりゃ良かった」
「ほへは…」
「うん。食ってから喋れ?これ今朝も言った」
「ふみはへん」

こうして呑気に弁当を食べている空気では無いのだけれど、それは気にした者負けだと思う。そんなことを気にしていたら、昼休みが終わって食べ損ねそうだ。

「これはマリちゃんが作ったんですか?」
「いや、俺」
「マナですか?シャワーを浴びる前に?」
「いや。昨日の夜作った。朝はレイの面倒みるのに忙しい」

寝起きの悪い妹は、この年になっても散々ぐずってくれる。それを宥めながら二人分の弁当を作るのは、さすがに普通の高校生である俺には無理だ。

なので、大概弁当のおかずは前日の夜に用意しておく。いつ頃からだったかもう忘れてしまったが、お弁当作りは俺の担当になっていた。

「オムライス好き?」
「好きです!」
「だったら今日の夕飯それな」
「マナが作ってくれるんですか!?」
「野菜もちゃんと食うなら作ってやる」
「うう…お願いします」
「よろしい」

ご褒美だ。と、唐揚げも一つ口に放り込んでやる。

こうして見ていると、妹が増えたみたいで可愛い。年も妹と同じだし、ついでに言えば身長も同じくらいだろう。タイプは違うけれど、俺にとって可愛がるべき対象なことに変わりは無い。

「お前可愛いねー」
「はい?」
「可愛い子好きだよ、俺」
「…はぁ」

頭を撫でようと伸ばされた手に、ギュッと圧力がかかる。男の力はさすがに痛い。今朝のセナとは大違いだ。

「hey,Mr.痛いよ?」
「セナに気安く触んな」

どうやらしっかりと俺の腕を掴むこの彼は、セナに少なからず好意を抱いているらしい。だからと言って攻撃される覚えは、俺には無いのだけれど。
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