執着王子と聖なる姫
ひと月かけてバタバタと準備をし、日本の夏休みが始まる前、妹のバースデーが過ぎた頃に俺達家族はNYから日本への引っ越しを終えた。

言い出した母は手続き関連のことを一切せず、指折り日本へ戻れる日を待つというお決まりのパターンだ。我が家はこうして父が苦労することで成り立っている。


ゴネるだろうと予想していた妹はあっさりと首を縦に振り浮かれ、母は勿論ご機嫌だった。父も久しぶりの故郷に、何だかホッとしているようだった。

けれど俺は、憂鬱で仕方がなかった。

日本人とは言え、日本で暮らした記憶が殆どないのだ。土地勘も無ければ、友達だっていない。加えて母がいつも「日本人は堅苦しい」と言っていたものだから、あまり良い印象が無い。


両親は別として、妹までもがご機嫌な理由がいまいち理解出来なかったのだ。
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