執着王子と聖なる姫
いや…あるかもしれないけれど、それはそれ、これはこれだ。

「意地悪しないでください!」
「もっと言ってやれ、セナ。出来れば手を放してくれるようにも」
「マナの手を放してください!」

手を掴まれたままの俺と、睨み合う二人。誰か止めてはくれないだろうか。早く残りの弁当を食べてしまいたい。

「何でこいつ庇うんだよ」
「セナはマナの一番です。一番にしてくれたから大切にするんです!」
「はぁ!?何言って…」
「龍ちゃんには言っても無駄です。マナを放してください。さぁ!」

グイッと押し退けられ、新見は手を放して一歩引いた。涼やかな目元が若干潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

いや、気のせいだと思いたい。なかなかに哀れだ。

「どうしてですか?」
「え?」
「今朝俺に言ったよな?ちゃんと話聞いて、相手にちゃんと伝えろっつって」
「はい。言いました」
「じゃあ何でセナはそうしない?」
「龍ちゃんには話しても無駄です。訊いても無駄です」
「だってよ、龍ちゃん」
「うるせぇ!お前に何がわかる!」
「いやいや、俺に当たられても」

再び俺に向かって伸ばされた手を、パシンとセナが叩き落とした。

「龍ちゃんは「うるせぇ!」ばっかりです。だからセナは龍ちゃんと話すのが嫌いなんです!」
「それは…」

可哀相に。少し不器用なだけだろうに。不器用と、おそらく口下手なのだ。

グッと唇を噛む新見は、どう見ても俺みたく軽口を叩けるタイプではない。

「セナ、ちょっと聞け」
「はい。何ですか?」
「十人十色って言うんだろ?日本語では。人それぞれってやつだ」
「あぁ、はい。それがどうかしましたか?」
「言える奴と言えない奴がいるってことだ。苦手を克服すんのは本人であってセナじゃない。強要は良くねーよ?」

コツンと額を合わせると、ハッと目が見開かれる。素直なのはコイツの良いところだろう。

「セナは間違ってましたか?」
「間違ってはねーだろうけど、彼にはちょっと酷だったんじゃねーか?」
「そうですか…」

シュンと肩が落ちる。このままkissでも…と思わなくもなかったけれど、さすがにそれはマズイどころの話では済まなくなる気がしたのでやめておいた。
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