執着王子と聖なる姫
「龍ちゃん、ごめんなさい」
「あぁ、いや…」
「もう教えてくれって言いません」
「おっ…おお」
「なので、もうセナに構わないでください」
「はぃ!?え?ちゃんと俺の話聞いてた!?」
「聞いてました。でもセナは、理由がわからないと会話を先に進めることは出来ません」
「いや、オイ。待とうか、セナ」

引き止めたにもかかわらず、その頑固な女はさっさと席を立って教室を出てしまった。この場をどうしろと言うのだ、アイツは。

「佐野、悪かったな」
「え?あっ…いや…」
「ありがとな」

引き止めるべきか、行かせてやるべきか。去って行く背中が物悲しい。いたるところでコソコソと聞こえるけれど、新見の耳に入っていないことを祈るばかりだ。


「新見、俺と友達になろう。俺らきっと仲良くなれる」


追い掛けて手を差し出したのは、イヤミでも何でもない。追い撃ちをかけようと思ったわけでもない。ただ純粋にそう思ったのだ。

「お前…変な奴だな。俺のこと怖くないのか?」
「Why?」
「いや、だって…」
「じゃあ新見は俺が怖いか?」

トントンと右目の下当たりを叩きながらそう言うと、新見はガキみたいに顔をくしゃくしゃにして笑った。

「怖くねぇよ」

ギュッと握られた右手が、何だか心地好い。コソコソと話す声は、不思議と気にならなかった。



こうして俺は、龍二という友人を得た。あの頑固者のおかげで。
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