執着王子と聖なる姫
「で?」
「で?って何?」
「何でそんなバカげたことを思い付いた。どうせマリーが言い出したんだろ。このバカ女め!」
「悪い口!メーシー!」
「はいはい。ちょっと待って」

カランと氷がぶつかる音と共に、グラス三つが運ばれて来る。ゲームに夢中の二人の前にそれを二つ置くと、龍二がペコリと頭を下げた。

申し訳ないけれど、紹介は後回しにさせてもらうとしよう。今はこっちの方が大切だ。

「はい、マナもどうぞ」
「thank you」
「で、どうしたの?麻理子」
「マナがアタシをバカだって言うのよ!何とか言ってやってちょうだい!」
「こらこら。ママを泣かせたら承知しないよ?」
「んなことで泣くような女かよ、これが」
「これとか言わない」

ペシンと頭を叩かれ、ガツンと唇が寄せていたグラスにぶつかる。

痛い。

何だか色んな意味で痛い。

「良い機会だと思うよ?君らは依存し過ぎだからね、お互いに」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「ん?誰かなー」
「このバカ親が!」

バンッと机を叩くと、母の肩がビクンと跳ねた。しまった…と後悔してももう遅い。父の褐色の瞳にじとりと見据えられ、身動ぎさえ叶わなかった。

「これはもう決定事項。男のくせにうだうだ言ってんじゃねーよ。さっさと友達紹介しろ、馬鹿息子」

普段からは想像もつかないような低い声を響かせ、父はクイッと顎先でソファを差す。その気迫に気圧されて渋々立ち上がり、ポンッと龍二の肩を叩いた。

「悪い。ちょっとこっち来て」
「おぉ」

ああなった父には決して逆らってはならない。それが我が家の暗黙の掟だ。以前それでもゴネた妹が、散々に追い詰められているのを見たことがある。子供相手でも容赦はしない。それがうちの父親だ。
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