執着王子と聖なる姫
「龍ちゃんのパパは、龍ちゃんが高校生になる時に女の人に刺されて亡くなりました」


衝撃の事実だ。

だからこそ、画面を食い入るように見つめ、刀を振り回す武将を操りながら言う台詞では無い気がする。相変わらずのマイペースぶりに思わず感嘆の息が洩れた。

「セナちゃんは凄いことサラっと言っちゃうね」
「だよな」
「昔からああなんすよ。だから俺は気にしてません。あいつ、嘘はつきませんから」

視線を下に向けながら、龍二が苦笑いをした。それがやけに痛々しくて。グッと肩を引き寄せると、我が家のテロリストも何食わぬ顔をして爆弾を落とした。

「女癖悪い奴だったからねー、ヒカルは」
「…おたくのwifeもサラッとな」
「あらら。ホント困ったちゃんなんだから。ごめんね、龍二君」
「あははっ。いや、いいっすよ」

ケラケラと笑い始めた龍二の代わりに苦笑いになったのは、言わずもがな俺と父だ。

「愛は苦しいものだとはるが言ってました。でもそれは、龍ちゃんからパパを奪って良い理由にはなりません。龍ちゃんには世界でたった一人のパパです」

勝鬨をバックに、セナが振り返る。言っていることは尤もだけれど、如何せんバックがそれなものだから真剣味に欠ける。

「お前はもうちょっと空気を読む練習をしようか」
「どうしてですか?」
「人には触れられたくないとこってのがあるもんなんだよ」
「セナにはありません」
「人それぞれだっつったろ?」
「…はい」

しゅんと肩を落としたセナの頭を撫で、ふふっといつもの笑いを洩らした父。それを見上げながら、セナは何だか不思議そうだ。

「可愛いね、セナちゃんは。昔の姫にそっくりだ」
「ちーちゃんにですか?」
「うん。姫もよくそうやって王子を困らせてたよ。さしずめマナは昔の王子ってところかな」

ひょいっとその小さな体を抱き上げ、ちゅっと頬に口付ける。満足げに微笑みながら、父はスリスリとセナに頬を寄せた。

「実は俺もこうしたかったんだよね。妹がいればこんな感じだったのかなって。王子が羨ましかったなー」

そんなことを思ってそうするのならば、是非とも自分の娘にしてやってほしい。愛する妻にそっくりな娘を、もう少しで良いからわかるように愛してやってほしい。俺としてはそう思う。
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