執着王子と聖なる姫
そっとロールカーテンを上げると、しっかりとクマを抱き締めたセナがスヤスヤと眠っている。

昔ちーちゃんがハルさんに買ってもらったらしいそのクマは、今はもう随分とくたびれていて。けれどセナが気に入ってしまったものだから、母娘二代にわたって大人しく腕に抱かれているそうだ。

「無防備過ぎるよ、お前」

覗き込んでそっと頬を撫ぜると、パチリと双眸が開いた。驚いてサッと手を引くと、パチパチと猫目が瞬かれる。

「変な声が聞こえます」

むくりと体を起こし、ふるふると首を振る。サラリと長い髪が揺れた。こんな深夜に何事だろうか…と、俺もじっと耳を澄ます。

そして、あることに気付いた。これは…教育によろしくない。

「ん?何も聞こえねーけど?」
「嘘です。何か聞こえます」
「さぁねぇ」

おおかた、両親の寝室の扉が少し開いているのだろう。娘同士を交換しているのだから、少しは気を遣ってほしい。と、哀れな息子は切実に思う。

「セナには聞こえますよ?何の声でしょう」
「俺には聞こえなーい」
「よく聞いてください」

ボフッと枕に両手を付いたその肩から、スリップの紐が片方滑り落ちた。

パジャマを着れば良いのに、何故妹と同じ格好をして寝ているのだろうか。暑いならばクーラーをつければいい。目の毒だ。

「落ちたって、肩紐が。脱げるよ?」

そっと引き上げてやると、キュッと身が縮められる。そんなに警戒するならば、そんな格好をしないでほしいと思うのは俺だけだろうか。

「何もしねーよ。さっさと寝ろ」

ゴロンと仰向けになると、目の前で長い髪が揺れる。
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