執着王子と聖なる姫
触れるだけのkissは駅のホームでした。だからもう少し。

バチリと開かれた双眸を手で覆い、仰向けにさせてそのままくちゅりと音を立てた。

「な?やめといた方がいいっつったろ?」

呆然としているセナの額に、ちゅっと口付けを一つ。これで懲りただろうと思った俺は、まだコイツの真髄をわかってはいなかった。

「セナにもさせてください」
「はぃ?」

慌てて身を引こうとしたのだけれど、時既に遅し。両腕を首に回され、再び逃げ場が無くなった。何とか腕をついて止めたものの、やたらと顔が近い。

「何してんの、お前」
「キスするんです」
「いや、わりと普通に言うね」
「マナはしても良くてセナはダメなんですか?それはズルイ」

そう言われてしまえば、「どーぞ」と言うしかない。付いた手を軸にゴロンと体を倒すと、そのまま上に乗ってしまったセナの髪がサラリと頬を撫ぜた。

「してもいいですか?」
「どーぞ」

開いたままの瞼に、そっと柔らかな手が触れる。遠慮がちに触れられた唇にじれったくなって後頭部に手を回すと、そのまま引き寄せた。

「セナがするって言ったのに!」
「え?んなの我慢出来るわけねーじゃん」
「我慢してください。セナがマナを気持ち良くしだけるんです」

俺の上に乗ったまま、サラリとそんな危ない発言をするセナ。ここで突き放さなければ、もうそろそろ理性の糸がプツリといきそうだ。

「降りろ。んで、早く自分のベッドに戻れ」
「どうしてですか?」
「言ったろ?俺は男だって。危ないよ?」
「何が危ないんですか?」

両腕を支えに少し体を起こすと、ひゃっと小さく悲鳴が洩れた。そのまま完全に座り、足の間に落ちたセナをじっと見つめる。伸ばされた手が、スッと右の瞼を撫ぜた。

「まだ教えてくれませんか?」
「ん?」
「マナが自分で傷をつけた理由です」
「お前待つつったじゃん」
「それは違う話です。マナがセナを大好きになったら教えてくれるって言いました」
「そうだっけ」

むぅっと膨れた頬を突くと、ポカンと肩を叩かれた。
< 62 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop