執着王子と聖なる姫
「kissだけ?どこまでしたの?」


浮かれた声と共に、俺の願いはいとも簡単に打ち砕かれた。

忘れていた。
読めないどころか、読もうとさえしない我が家のテロリストの存在を。

「shut up!Mary」
「いいじゃない。アタシも仲間に入れてよ」

突然姿を現した母に、龍二が気まずそうに視線を逸らす。あぁ…何となく気持ちはわかる気がする。

「言ったろ?あれと同じだって」
「あぁ、おぉ」
「言っとくけど、身長以外は瓜二つだからな」
「何か俺…親父さんに謝りたい気分になってきた」
「やめとけ。あの人はお前が考えてる数倍…いや、数十倍思考が痛い」
「そんなに!?見た目愛斗なのにな」
「俺はこの家に生まれた奇跡の人だ」

父のことだから、そんなことを言えば「麻理子に手を出したら承知しないよ?」と言い出しかねない。どこからどう考えたらそうなるのか俺には理解不能だけれど、どうやらあの人の思考は全てが「愛する妻」に繋がるらしい。

確かに母は綺麗でスタイルも良い。
それは否定しないけれど、そろそろ年齢を考えても良い頃だと思うのは俺だけだろうか。高校生の子供がいるのだから、決して若くはない。

「ママっ!聞いて!アタシ、リュージのsteadyになったのよ!」
「あら、そうなの?」
「ええ、あぁ、はい」
「あ、そうだったんですか。それはおめでとうございます」

漸く合点がいったと言わんばかりに、スッキリとした表情でセナがパチパチと手を叩く。

そうか。
「付き合う」の意味自体を理解していなかったか。
そこまで無知だったか、この女は。

「お前もうちょっとちゃんと勉強しような」
「お勉強は毎日してます。成績も悪くありません」
「そうゆう意味じゃねーよ」

簡単な言葉の意味くらいは俺が教えてやる。と、ピンッと額を指先で弾く。教えてもらえるのが嬉しいのか、セナは大きく頷いた。
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