執着王子と聖なる姫
「お前さ」
「ん?」
「あいつの相手してて疲れねぇの?」
「ん?結構楽しいよ」
「あいつ変わってんだろ?ちっこい頃からそうなんだよ」

ふぅと息を吐く目の前の幼馴染は、不器用が故に相当苦労したことだろう。振り回されているうちに好きになった。その気持ちは、もう30年以上アレに振り回され続けているらしいうちの父にならよくわかるのではないだろうか。

「お前こそセナが好きなんじゃなかったのかよ」
「いや、それは…」
「言っとくけど、レイはセナとは真逆だよ?」
「あぁ、うん。だろうな。でも、俺はあいつ可愛いと思う」
「そりゃあの顔だからな」
「いや、顔じゃなくて」

何だか楽しげにコソコソと話している女三人を視界に入れながら、男二人で語り合う。これもいい。父が居ないから尚良い。

「泣いてたんだよ、あいつ」
「ん?」
「お前がいなくて寂しいって」
「弱ってるとこつけ込んだ?悪い男だねー、お前」

からかうと、カッと頬を紅潮させる。そんな友人が悪い男のはずがない。

「ジョークだよ。で?」
「だから…言ったんだよ。セナがお前に言ってたこと」
「ん?何だっけ?」
「大人になるには痛みが伴うらしいから、今胸が痛いのは大人になるために仕方ねぇことなんだって」
「へぇー。まっ、相手がお前で良かったよ、俺は」
「愛斗…」
「で、どうだったよ?」
「は?」
「可哀相に余分な脂肪が一切付かなかった、うちの残念な妹の抱き心地は。これでちょっとは女らしい体つきになるかねー」

にししっと笑ってやる。見ず知らずの奴に持って行かれるより、自分の友人の方が安心だ。いつまで経っても、俺にとってレイは可愛い妹なのだから。


「言っとくけど、泣かせたら承知しねーよ?」


釘を差すことを忘れなかったのは、兄妹愛だ。
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