執着王子と聖なる姫
「龍二」
「愛斗」

決して口は割るまい。と、頷き合う。

俺は父と約18年、龍二も龍二でハルさんとはそれなりの年数付き合ってきているのだ。時間の問題だということは、共に十分承知している。それでも足掻きたい年頃なのだ。たとえそれが無駄に終わろうとも。

「メーシー、とっちめるか」
「そうだね。可愛い娘のことだからね」

百歩譲って、ハルさんの言い分はわかる。一人娘のセナを溺愛しているだろうから。

けれど、うちの父の溺愛対象はあの痛い母なはずだ。寧ろ龍二には、俺が詰め寄ってもおかしくないだろうと思う。

「別に無理にとは言わないよ。ね?王子」
「せやなぁ。俺らの娘は素直なええ子やからなぁ」
「げっ!脅しじゃねーか!」
「とーちゃん汚ぇぞ!」
「んー。だったら自分達の口で話す?」
「その方が、隠したいとこは隠せる思うけどなぁ」

褐色の瞳に見据えられ、身動ぎさえ叶わない。恐ろしい。絶対敵に回したくない人物だ。

「どうする?この人こうなったら絶対引かねーよ?」
「俺はまぁ…あれだけど…お前平気なのかよ」
「俺?」
「お前だってまだ…」
「あぁ…問題?」
「…多分」
「ですよねー」

おそらく龍二は、「男のルール」を語られる程度で済むだろう。ちゃんと恋人同士という形があり、その上での関係なのだから。

けれど、俺とセナの間にはそれが無い。

決して頭の堅い人達では無いと思う。寧ろハルさんは、昔は相当やんちゃだったと聞いた。が、自分の娘のことでそんなに寛大でいられるだろうか。

答えは…誰が見てもNo!だ。
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