執着王子と聖なる姫
あれがねーと納得する俺の隣で、不満げに唇を尖らせた妹が父の腕に絡み付いた。

「ねぇ、あの子は誰?」

アクアブルーをゆらりと揺らせながら、妹は目を輝かせている。邪魔だろ?とその細い腰を引き寄せると、父が大好きな妹はぷぅっと頬を膨らせた。

「邪魔してっとまたマリーに叱られっぞ」
「だってぇ…パパぁ」
「はいはい。ちょっと待ってね?これが終わったら構ってあげるから」

そう言われたとて、妹が納得するはずがない。これが終われば父はすぐに母の元へと行ってしまう。そうすれば、妹の入る隙などないのだ。それがわかっているからこそ、こうして邪魔になるとわかっていても纏わり付きたがる。

「そんな顔してっと食っちゃうぞ」
「No!マナに食べられるなんてごめんよ!」
「このやろっ!」

ふんっと鼻を鳴らしてキッチンを出た妹を追い、リビングを抜けて庭へ出る。そこで漸く捕まえた妹を肩に担ぎ、パシンとお尻を叩いてやる。短いスカートの裾から下着が見えそうになっていたけれど、そんなことは無視だ。

すると、再び目の前に居た少女が固まった。しかも、顔を真っ赤にして。

「まぁたアンタ達は!」
「Mary!Help me!」
「うっせー!耳元でデカイ声出すなっつーの」

ジタバタと暴れる妹の太ももに腕を回し、父親が子供を抱くように抱き上げる。

普通の女が相手ならまず無理だ。元モデルの母も唸るくらいの細さで、尚且つ残念ながらモデルになるには身長が足らなさ過ぎる、チビの妹だから出来ること。

「下ろしてよ!」
「謝ったら下ろしてやるよ」
「何も悪いことしてないでしょ!」
「寝てる俺の腹の上に乗ってきたのはお前、メーシーの邪魔したのもお前、耳元で大声出したのもお前」
「それは…だって…」
「さっ、素直に謝った方が身のためだ」
「うう…っ」
「だったらもう一緒に寝てやんねー」
「わっ…悪かったわ!sorry.だから許して。ね?お願い」

首に腕を回して、「お願い」と擦り寄る妹。「仕方ねぇなぁ」と頭を撫でてやる俺。こんなこと、我が家では特別でも何でもない。実際、両親もソファでよくこうして寄り添っている。
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