執着王子と聖なる姫
そして、値札を見て更にガックリだ。

「これはセナのお小遣では無理です」
「買ってやろうか?」
「いいです。高いですよ、これ」

ワンピースにしてはなかなかの値段だ。
けれど、それくらいは財布の中に入っていたように思う。

「欲しいんだろ?それ」
「いいです。丈も合いませんし」

ちょんと裾を摘むと、ふるふると首を振るセナ。そんなにも残念そうな顔をされると、何とかしてやりたくなる。それが男心というものだろう。伊達にフェミニストの父は持っていない。

店員に断って中に入ると、何の断りも無く背中のチャックを下ろす。切り替え部分の縫い目を確認し、コクリ。さすがに高いだけあって生地も悪くない。確認するだけして、再びチャックを上げた。

「丈は俺が直してやる」
「え?」
「着替えて出て来い。買ってやるから」

その場から抜け出し会計を頼むと、店員も困惑気味だ。155センチに満たない身長であのワンピースが合わないことは、店員なら承知の上だろう。

「あちらで…よろしいですか?」
「結構です。出て来る前に会計を。あぁ、これも」

目に留まったアクセサリーを手に取り、ついでとばかりに渡す。

「二点で23000円になります」
「じゃあこれで」

一万札を三枚。置いたところでセナが駆けて来た。

「マナ!いいですよ!」
「別にいいよ?欲しい本買った後だし」

脇に抱えていた袋を掲げ、トントンと指で叩く。袋の中にはハードカバーの本が三冊。どれも欲しかったものなので、自分の目的は達成した。

「でも…」
「気にすんな」
「そうゆうわけには!」

頑固だ。可愛いげの無い。女は男に着飾られる生き物だろう?そんな思考の代表のような父を持つ俺は、当たり前にそう思ってしまう。
< 84 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop