執着王子と聖なる姫
「いいから貸せ。包んでください」
「畏まりました」

腕の中から抜き取られたワンピースを追って、セナの手が伸びる。それを制し、代わりとばかりに会計を済ませたアクセサリーを受け取って強引に引き寄せた。

「お前はこっち。帰ったら直してやるから、それまでおあずけだ」

長いビーズのネックレスを、強引に三重に巻く。

光りを反射するようにカットされた小粒の黒と、所々に入れられた同じカットの一回り大きな紅色。黒髪に黒いレースのワンピース。今日の服装によく似合う。


「首輪だ。俺から逃げられると思うな?」


ニヤリと口角を上げると、セナはそのまま大人しくなった。俯いてコクリ。まぁ、飼い慣らすにはまだ少し時間が掛かりそうだけれど。

「ありがとうございました」

深々と頭を下げる店員から紙袋を受け取り、肩に掛ける。追いかけて来るセナは、俯いて不満げだ。

「何だ?首輪が気に入らねーか?」
「…違います」

太陽の光を浴びて、髪と首元がキラキラと煌めく。なかなか綺麗なものだ。ずっと見つめていたくなる。

「マナ」
「んー?」
「いいんですか?あんな高価な物を買ってもらって」
「気にすんな。好きな女を着飾りたいと思って何が悪い」

キュッと握られた手が、止まれと訴える。それに従って足を止めて振り返ると、猫目がじっと見上げていた。

「もう一回言ってください」

少し考え、ベッと舌を出してやる。

言葉はやらない。十倍貰ってからだ。

背を向けると、グイッと紙袋が引かれた。

「ん?」
「自分で持ちます」
「いいよ」
「持たせるのは好きじゃありません」
「サイズ直すまでこれは俺の。だから俺が持つ」

その代わり、と、空いた左手で柔らかな右手をギュッと握る。指を絡めて、恋人同士さながらに。
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