執着王子と聖なる姫
日本の夏は蒸し暑いなーとボヤけば、「都会ですからね」と微妙にズレた答えが返ってくる。それにももう慣れた。


「佐野くーん!」


不意に呼び止められ、ゆっくりと振り返る。知った女が一人。露出度の高い服を着て、大きく手を振っている。

「知り合いですか?」
「クラスメイト」
「隣の席の…」
「おっ。覚えてた?偉いねー」

絡めた指にギュッと力が入る。覗くと、僅かに頬が膨らんでいた。

「妬いてんの?」

からかって遊んでやるのも悪くない。ギュッと握り返し、見えないように前髪越しにちゅっと額に口づける。

「心配すんな」
「してません」

プイッと背けられた顔が、ヘソを曲げた証拠だ。これだから女は扱い難い。

「佐野君!」
「おぉ。久しぶり」
「あっ。カワイー女の子」
「ん?おぉ」

覗き込まれ、またプイッと顔を背けるセナ。今度は俺の腕に顔を着け、徹底防御の構えだ。

「何してたの?」
「ん?買い物」
「二人で?」
「そっ。木元さんは?」
「今から一人カラオケ。佐野君達も一緒に行く?」

カラオケは一人で行くものだっただろうか。どう考えても、俺の中でそんな認識は無い。

「一人で?」
「そうよ。だから一緒にどう?」

バッチリメイクの長いまつ毛が揺れる。乗ってやりたいのはやまやまだけれど、セナはどう考えてもそんなタイプではない。何せ、一緒になって一日中家に篭っているような奴なのだから。

「ごめん。遠慮しとく」
「言うと思った」

メゲないタイプなのだろう。そう言いながら、どうにかセナの顔を覗き見ようとウロウロしていた。
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