執着王子と聖なる姫
「仲のええ兄妹やな。羨ましいやろ、セナ」

自分の腰にしがみ付きながらふるふると首を振る少女の頭を、ハルさんはゆるりと撫でて微笑んだ。

「ちゃんとご挨拶しんとあかんのにー」
「だって…」
「帰ってはるとけーちゃんに叱られるわ」

隣でにこにこしていたお姉さんがそう諭すと、少女はゆっくりとハルさんから離れて俺達の方へと歩み寄って来た。

「セナです。初めまして」

差し出された右手を、まずは妹が握り返す。

「Hi.I'm Layla.Nice to meet you.」
「Nice to meet you,too.」
「ふぅん。やるじゃない」

チビの妹と、それに負けず劣らずの少女。ちびっこの英会話バトルだ。などと思っていたら、スッと俺の前に手が差し出された。

「Nice to meet you,princess.」

身を屈めてちゅっと手の甲にキスをすると、やはり…顔を真っ赤にして飛んで逃げた。これは面白い。そんな俺の頭を、父がコツンと小突く。

「ダメだよ、そうゆことしちゃ」
「何でだよ。挨拶しただけだろ」
「ここは日本なんだから、そうゆう挨拶はしなくていいって言ってんの。見てみなよ。可哀相に」

うーんと唸りながら、セナは必死に目で何かを訴えている。ハルさんに叱られるかと思いきや、そうでもなかった。

「さすがメーシーの息子やな」

はははっと笑うと、八重歯が覗いた。うちの父もかなりの美形だと思っていたけれど、この人の方が「美形」と言う言葉はしっくりくるかもしれない。そんな…おじさんだった。

「笑ってられるのは、せいぜい今のうちだけだと思うよ?王子」
「ほぉ…メーシーは自分の息子が性悪や言うんか?」
「さて、それはどうだろう。でも、二人とも性格は麻理子似だからね」
「ちょっとめいじ!それどうゆう意味よ!」
「あれ?俺何か言ったっけ?」
「言ったじゃない!」
「え?姫、何か聞こえた?」
「えっ!?ちさ聞こえなかった」
「もう!princessまで味方につけて!」
「あははっ。そない怒るなって、マリ。皺が増えんぞ?」
「もー!晴までそんなこと言って!」

プリプリと怒る母を懐かしむような目で見ながら、ハルさんは「相変わらずやなぁ」とセナの頭を撫でていた。


そんな賑やかな夏の日、俺とセナは出会った。
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