執着王子と聖なる姫
「ええ生地やなぁ…綺麗で柔らかいし。なんぼしたん?これ」
「ワンピース自体は二万いかないくらいだったと思います。一緒に今日着けてるネックも買ったんで、二万ちょっとですかね」
「ひえー。高校生が彼女にプレゼントする額ちゃうがな」
「まぁ、あっちではバイトしてたんで。それに俺、本くらいしか買う物無いですから」

友達と出掛けるわけでもないし、服や靴は母が買い物ついでに買って来る。日本に来てから妹の服をいじることも無くなったし、使い道が他に無いのだ。

「バイト何してたん?」
「父の知り合いのデザイン会社で、手伝いをしてました。口きいてもらって」
「へぇー。ほなデザイン出来るん?」
「まぁ…多少なら、ですけど」
「やっぱ血は争えんってことかなぁ。マリちゃん煩かったからなぁ」

でしょうね。と頷き、庭ではしゃぐ姿を見遣る。何を隠そう母が今着ているパッションオレンジのロング丈ワンピースは、俺がデザインしたものだ。

「あれ、俺のデザインです」
「マジで!?どうりでマリちゃんにピッタリのデザインやと思ったわ」
「社長が母を凄く気に入ってて、作らせるからデザインしろって言ってやらせてくれたんです」
「いやー。さすがマリちゃん。いや、それで出来る愛斗も凄いけどな!ほなさぁ、セナに自分のデザインした服着せたいとか思う?」
「あぁ…思わなくはないですけど、多分ハルさんやケイさんの趣味とは合わないと思うんです」
「ん?」
「俺、あっち系統が好きなんで」

ちょうどリビングに入って来たセナを指すと、ケイさんはそれを手招きで呼び寄せた。

「何ですか?」
「ちょっと服見せて。晴人は止めれたか?」
「無理でした。既にちーちゃんはカンカンです」
「あちゃー。今日は寄らんと家帰ろーっと。はい、回ってー」
「え?こうですか?」

くるっと回ると、シフォンフリルの裾がふわりと揺れる。それを見て、ケイさんはうーんと唸った。

「これ、手入れたやろ?」
「はい。それはかなり手を加えました」
「元はどんなんやった?」
「ただのシンプルなAラインのキャミワンピです」

それに色々と手を加え、まったく違うデザインにしてしまったのは俺だ。これはさすがに手間がかかった…と、苦労を思い出して一人うんうんと頷く。
< 93 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop