執着王子と聖なる姫
好きだからああしたいだとか、好きだからこうしたいだとか、そんな想いは面倒だと思ってきた。

実際それを盾に縛り付けようとする女からはすぐに手を引いてきたし、俺もそれを主張したことは一度も無い。面倒くさいのだ。そこまで本気になることはない。

そう、今回以外は。

「ここ、こないだ来たとこの近く?そんな感じしねーんだけど」

キョロキョロと辺りを見渡す俺に、頭一つ分以上下からセナが笑い声を洩らす。パシンと額を叩くと、ぶぅっと膨れっ面で俺を見上げた。

「ここどこ?」
「近くですけど、通ってはいませんよ。地理的に近いってことです」
「ふぅん。で、どこ行くわけ?」

行き先も告げられずに家を連れ出され、俺としてはかなり不満だ。一応財布の中身は確認してきたけれど、行き先がわからないままでは予定も組めやしない。

黙って手を引かれるのも、そろそろ飽きてきた頃だ。

「買い物?」
「ぶー。もう着きますから待ってください。ほら、あそこです」

あれは…ビル?三階建てのオシャレな建物を指し、セナが嬉しそうに笑う。

ここに何があると言うのだろうか。どう見ても店舗は入っていなさそうなのに。

などと思いながらふと駐車場に視線を遣ると、見慣れた車が三台並んでいた。

「ここは、はるやメーシー、それからけーちゃんの働いている場所です」
「言っとくけど、モデルはやんねーからな」
「大丈夫です。マナを呼んでるのはけーちゃんですから」

さぁさぁと背中を押され、階段を強制的に押し上げられる。

開け放たれた窓から、夏独特の匂いのする爽やかな風が吹き込んだ。
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