執着王子と聖なる姫
「メーシーさ、天然タラシだよな」
「失礼だな。フェミニストって言えよ」
「いや、あれはタラシだろ」
「マナ、天然たわしって何ですか?メーシーはたわし?」
「たわしじゃなくてタラシな。誰でも落としちゃう男のことだよ」
「落としちゃう?どこに落とすんですか?」
「いや、そうじゃなくて…」

話が噛み合わないのはいつものことだ。kissやら何やらを教える前に、コイツにはそっち系の言葉を教える必要がある。順序を間違えたのは明白だ。

「ふふっ。セナちゃん、そこの扉をそっと開けて、こっそり中に入ってごらん?」
「何があるんですか?」
「天然タラシが見れるよ。こっそりね?」

そんな面白そうな誘惑に、好奇心旺盛なセナが乗らないはずがない。目を輝かせて見上げるものだから、ついうっかり頷いてしまった。


そっと扉を押し開けると、男女の話し声と何かの機械音が聞こえて来る。言われた通りにこっそりと覗くと、まさに天然タラシがそこに居た。

「ミサト、こっち向いて?」
「いーやっ」
「可愛い顔見せてや」
「興味無いくせに」
「んなことあらへん」
「だったら付き合ってよ」
「今晩メシでもどうですか?お嬢さん」
「もぉ。ハルさんのそうゆうとこが好き」

さっき父に寄り添っていた女の人が、今度はベッドに横たわっている。しかも、思わず息を呑むような白い肌を晒して。

聞こえて来た機械音はカメラのシャッターを切る音。今はまさに撮影中。驚かせないようにゆっくりとセナの目を両手で塞ぐと、黙ってその場を後にした。
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