執着王子と聖なる姫
「どうだった?見れた」

音を立てないようにそっと扉を閉めると同時に、うふふっと楽しそうな底意地の悪い男が寄って来た。じとりと睨み付けると、両手を広げて肩を竦める。そんな姿は、楽しいことを見つけた時の母のそれとそっくりだ。

まぁ、本人は気付いていないみたいだけれど。

「はるが…居ました」
「あれはね、セナちゃんの知ってるパパじゃないよ?」
「じゃあ誰ですか?」
「あれは、フォトアーティストのハル」

言いたいことは何となくわかる。けれど、それがコイツに伝わるかどうかだ。案の定首を傾げたセナは、難しそうな顔をして唸っている。

「俺だってここに居ればマナのパパじゃないし、ケイ坊だってそうさ。俺達はアーティストだからね」
「アーティスト…」
「難しいかな?じゃあ、これ見比べてごらん」

そう言って父が差し出したファイルには、二枚の写真が並んでいた。

「これは…」
「右側のがマナのママ、左側がセナちゃんのママだよ。どっちも王子が撮った写真」

おそらく俺達が生まれる前に撮られただろうその写真には、確かにうちの母とちーちゃんが映っている。二人ともちゃんと服を着て映っていてくれているので、遠慮することなくじっくりと見ることが出来た。

「どう?」
「何だか…違う人が撮ったみたいです」
「でも、どっちも王子が撮ったんだ。ヘアメイクは俺がしたし、コーディネートはケイ坊がした」

モデルが違うのだから、雰囲気が違うのは当たり前だ。うちの母とちーちゃんでは、真逆と言っても過言では無いくらい雰囲気が違う。けれど今感じる違いは、それだけのものではないのだ。何かこう…上手く言えないけれど、明らかに違うものがある。

「これは、恋人として三木晴人が彼女を撮った写真。で、これは、フォトアーティストとしてハルがモデルのマリを撮った写真」

あぁ、そうか。それだ。明らかな違いは、撮る側の想いだ。

「マナにはわかったみたいだね」
「あぁ…うん」
「セナにはわかりません」
「セナちゃんにはちょっと難しかったかな」

むぅっと膨れたセナが、じっと俺を見上げる。説明しろと言われても、噛み砕くのはさすがに難しい。俺とて万能ではないのだ。

けれど、してやらなければいつまでだって考え込む。それがコイツだ。
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