カローレアの金
プロローグ
「盗人だー‼誰か捕まえてくれー‼」
店主の男の声が響く。
「一般人に捕まるような腕なんかしてねぇよ、盗賊なんだから」
そう言いながら逃げるのは、金色の髪をした短髪の子供だった。
カーゴ色のズボンに、白いシャツ。どちらもボロボロだった。
その子供の名前は、アン。
名前からわかるように、女である。
「――いたぞ‼」
カローレアの衛兵がアンを追いかける。
「相変わらず動きが早いなぁ…さあて、鬼ごっこの開始だ‼」
アンは日常的に行われる衛兵との追いかけっこを「鬼ごっこ」と称して楽しんでいた。
腕に抱えた紙袋の中には、三日は食べられる程の食糧
「ったく、食糧くらい自分で盗ればいいのに…あの親父」
アンは、少しばかり名の知れた盗賊の頭、ジャンの一人娘だった。
「いたぞ‼」
「うおっと」
アンが進む方向には大勢の衛兵が先回りしていた。
「ちっ…遠回りするかあ…」
アンは方向を変え、一本の細い道へと入って行く。
「…衛兵も賢くなっちゃったかなぁ」
しかしその先にはブロック塀があり、行き止まりだった。アンは足を止める。
ブロック塀の高さは三メートルあるかないか…
塀の手前には木箱がひとつだけ。木箱に乗っても乗り越えられる高さではない。
「やっと追い詰めたぞ…今日こそ…」
衛兵たちが走りながらアンに近づいていく。
アンは頭を掻きながら、向かってくる衛兵に向かって
「ねえ‼見くびってもらっちゃ困るんだけど‼」
「何…?」
アンはにやりと笑い、少し下がる。
その間にも、衛兵とアンの距離はどんどん縮まって行く。
「…まずい‼全員全力で走れ‼」
アンの思惑に気づいた一人の衛兵が叫んだ。