甘い誓いのくちづけを
「少し前から付き合ってる彼女がいて……本気で好きになったんだ……」


深刻な表情で告げられた、真実。


結婚を目前にした今、その内容はあまりにもバカげたものだと思えた。


「すまない……」


文博が零した謝罪が、コーヒーカップから漂う湯気をフワリと揺らした。


自分に向けられた言葉達が、頭の中でグルグル回る。


「だから、瑠花とはもう……」


そこで止められた言葉に目を小さく見開き、俯いていた顔ごと視線を上げた。


その僅かな時間に、暗(アン)に『終わりにしよう』と告げられている事を理解して。


それなのに、何を言えばいいのかわからなくて。


あたしはただ、文博を見つめたまま唇を噛み締めるだけで精一杯だった。


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