甘い誓いのくちづけを
腕時計に視線を落とし、まだ昼休みが半分近く残っている事を確認しつつ、遠慮がちに口を開いた。


「じゃあ、もう切るね」


「あっ、瑠花!最後に一つだけ」


名残惜しい気持ちで告げたあたしを、母がまた引き止めた。


「今度は何?」


苦笑しながら訊くと、一呼吸置いてから母の声が聞こえて来た。


「瑠花は、瑠花が一番幸せになれる人と結婚しなさい」


「……急に何言ってるの?」


照れ臭さよりも先に瞳の奥から熱が込み上げて来て、ついぶっきらぼうに返してしまったけど…


「ただの親心よ」


それを聞く前から、母の気持ちはわかっていた。


「うん……。いつか、ね」


あたしは小さく返した後、今度こそ携帯を耳から離して切った――…。


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