甘い誓いのくちづけを
携帯を耳から離すと、途端に心を包み込むような寂しさが訪れ、ほんの少しだけ戸惑う。


耳に馴染み掛けた理人さんの声を、もっと聞いていたかった。


彼の優しい声音で紡がれる言葉を、もっと与えて欲しかった。


どんな些細な事でも、もっと理人さんと話していたかった。


“もっともっと”と欲張る自分の心に、少しだけ恐くなって…


それなのに、頭でも心でも理人さんの事ばかり考えてしまう。


そんな複雑な感情が混じった気持ちを抱えながら、通話終了を告げて暗くなった携帯のディスプレイをしばらくの間見つめていた。


だけど…


「あっ……!仕事っ……!」


ようやく今の自分の立場を思い出して、あたしは慌てて非常階段を後にした――…。


< 146 / 600 >

この作品をシェア

pagetop