甘い誓いのくちづけを
目の前のコーヒーから香りを感じる余裕すら、もう無い。


人目を気にせずに泣いてしまえたら、どんなにラクなのだろう…。


小さな子どものようにワンワンと声を上げて泣く事が出来るのなら、このやり場の無い感情も涙と一緒に流れてくれるかもしれない。


そんな事を考えている傍から、涙が溢れ出す。


咄嗟に唇を噛み締めて、何とかその雫を堪えた瞬間…


「大丈夫?」


いつの間にか、あたしの視界をさっきの男性が占めていた。


「はい……」


慌てて頷いて、開いたままのバッグからハンカチを取り出す。


それが文博から貰った物だって事に、また胸が痛んだけど…


とにかく涙を隠すように、目頭をグッと押さえた。


すると、すかさず男性(カレ)があたしの手を優しく制した。


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