甘い誓いのくちづけを
理人さんに促されて今いるベッドルームのベランダに出ると、まるで海外の庭のように白いテーブルと椅子が置かれていた。


やっぱり自分には縁が無かった光景に驚きながらも、階下に広がる街を見下ろしてみる。


「少し曇ってるけど、何とか見えるかな」


後から出て来た理人さんは、その手に見慣れない物を持っていた。


「今日が何の日かわかる?」


「……あっ!」


それを見せられながら訊かれた直後、あたしは理人さんを見上げた。


「金環日食!」


ここ最近、世間を騒がせていた現象にはちゃんと注目していたけど…


ずっと頭の中を占めていたのは理人さんの事ばかりだったから、すっかり忘れていた。


彼は瞳を緩めながら、日食グラスをパッケージから取り出した。


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