甘い誓いのくちづけを
「何なら、今夜飲みに行く?」


気を取り直したように言ったさゆりに、首を小さく横に振る。


「ごめん……。そういう気分にはなれなくて……」


「そう」


心配そうにしているさゆりに、ちゃんと話すべきだと思う。


彼女に相談すれば、きっと冷静に的確な助言をしてくれるだろう。


だけど…


自分自身がまだ頭の中を整理出来ていなくて、その段階にまで辿り着けない。


「ねぇ、さゆり……」


それでも一つだけ訊きたい事があって口を開けば、さゆりが優しい笑みを浮かべた。


「何?」


その表情が、ほんの一瞬だけ理人さんと重なって…


酷く締め付けられて苦しくなった胸の奥が、ミシミシと軋むように痛んだ。


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