甘い誓いのくちづけを
帰ろう……


もう、ここに用はない……


別れ話なら、電話でも出来るもの……


震える唇で息を吐いた後で踵を返すと、あんなにも動かなかった足はすんなりと地面を蹴った。


背後からはまだ話し声が聞こえて来たけど、お似合いな理人さんと間宮さんの会話なんてもう聞きたくなかった。


向かい合って立つ二人を目の前にすると、自分がどんなに惨めな存在かを思い知らされる気がしたから…。


あたしと理人さんが過ごした日々は、所詮(ショセン)夢物語だったのかもしれない。


そんな事を考えながら重い足取りで歩いていると、すれ違った人に何故か訝しげな視線を向けられて、ふと足を止めた。


そこでようやく、夜風に曝されている頬が濡れている事に気付いた。


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