甘い誓いのくちづけを
「えっと……」


理人さんと一緒だから、別に不安は無い。


だけど…


自分の置かれている状況が把握出来なくて、必死に頭の中を整理する。


その間にあたしの手を引いた理人さんは、無言のまま隣のエレベーターに乗り込んだ。


「あの、帰らないんですか……?」


「今夜は瑠花と一緒に過ごしたいんだけど」


「え?」


「……ダメ?」


密室の中、耳元で落とされたのは甘美な囁き。


ずるい……


そんな風に訊かれて、断れる訳が無いのに…。


そんな風に訊かれなくても、あたしが一緒に過ごしたいと思っている事をわかっているくせに…。


秀麗な顔で柔らかく微笑む理人さんは、きっと誰よりも狡猾(コウカツ)なんじゃないか、なんて思えた。


< 576 / 600 >

この作品をシェア

pagetop