甘い誓いのくちづけを
「素敵なひと時をありがとう」


誰に届く訳でも無いけど、それは他の誰でも無く理人さんに向けたもの。


婚約を破棄された事は、この上無く虚しいけど…


理人さんのお陰で傷付いた心が少しだけ救われたから、彼に精一杯の感謝の気持ちを込めて言葉にしたつもりだった。


名残惜しい気持ちになりながらも、宿泊したには小さ過ぎるバッグだけを持って部屋を後にした。


夢心地な気分が消えたのは、それから程なくしてからの事…。


エレベーターで一階に降りるまでに随分と時間を要して、あの部屋のグレードの高さを物語る。


いくらお姫様扱いをして貰ったとしても、あたしはあくまで庶民。


だから…


きちんと支払いが出来るのか、とても不安になってしまった。


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