甘い誓いのくちづけを
メイクポーチから取り出した鏡を開いて、口角をキュッと上げた。


二重の瞳はちっとも笑っていないし、笑顔を繕ったばかりの口元は早くも引き攣りそうになっている。


文博に会う時のメイクは、二重を強調するような濃いめのアイラインを引いていて、少しでも大人っぽく見えるように心掛けている。


アイシャドーはブラウンを基調にして、口紅は彼が買ってくれたブランドの限定色。


ただ、童顔な上に今時珍しいくらい真っ黒なロングヘアーのあたしには、このメイクはあまり似合わない気がして…


文博に会う前はいつも、鏡に映っている自分自身を見ても自分(アタシ)だとは思えなかった。


それでも、今はとにかく笑顔を作る事を最優先にする。


そして、そっと閉じた鏡をメイクポーチの中に戻した――…。


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