千尋くん、千尋くん
小柄で、着ている花柄のシフォンワンピースがよく似合う、その人。
あたしと千尋くんの前で立ち止まると、まるで少女漫画の主人公のような無垢な笑顔を浮かべた。
でも、右耳の横でふわふわのおだんごにされたキャラメル色の髪が、ちょっとだけ大人っぽい印象も見せる。
「……梓(アズサ)さん」
いつもと変わらぬ様子でそう呟いた千尋くん。
なんでだろう。
ちょっとだけ、胸がモヤモヤする。
「千尋ちゃん、こんな遅くにどこ行くの?」
そう言ってほぼ素っぴんだけど、ちょっとだけナチュラルメイクがほどこされている丸い瞳を、千尋くんに向ける。
そこでようやく隣にいたあたしの存在にも気づいたらしく、今度は視線をこちらに向けた。