千尋くん、千尋くん
「ち、ひろくん……っ」
だけど、こんな時でさえあたしは千尋くんを想ってしまう。
「あるみ」
優しくそう呼んだ千尋くんは、一生懸命涙をぬぐうあたしの手を引っ張って、そのままギュッと腕のなかに閉じ込めた。
「千尋くっ……涙ついちゃうっ」
「大丈夫。きっとあるみはオレの服汚さないために、泣き止んでくれるはずだから」
そんなムチャブリできません……っ。
だけど、千尋くんの腕のなかはやっぱりいつもと変わらなかった。
暖かくて、優しくて、安心できて。
離してほしくない。
そんなわがままを思っちゃうくらい。