千尋くん、千尋くん
はて? 待ちくたびれたとは?
当たり前のように言った彼の言葉に、ポカンと固まった。
なぜなら、その「待ちくたびれた」という言葉は、普段待ち合わせをする時などにしか使わないからだ。
「あれ? あるみー?」
固まるあたしの顔の前で、瑞穂くんがヒラヒラと手を舞わせる。
ハッとして瑞穂くんの目を見ると、そこにあるのは純粋かつ悪意のない澄んだ瞳。
「あ、あたし瑞穂くんと待ち合わせとかしてた……?」
「ううん、全然」
「で、でも、待ちくたびれたって……」
「うん、ここであるみが来るの待ってたの。携帯の番号とか知らないし。前ここであるみに会ったから、今日もここにいたら会えるかなーって」
そう言った瑞穂くんは、千尋くんだったら絶対に見せないような、とびっきりのスマイルを見せる。