千尋くん、千尋くん
「そしたら、そのぶん瑞穂くんは自由な恋愛ができなくなっちゃう。そんなのおかしいじゃん……自分の恋愛なのに」
「………」
「だったら最初からそういう縛りなんてつくらなくていいんだよ、きっと」
「ルールなんていらないってこと?」
「うん。……話、ずれちゃったけど、言いたかったのはあたしたちはいろんな意味があって好きな人と時間を過ごしてるってこと。相手の幸せのために、自分の自由を犠牲にしちゃうのは、それもおかしな話ってこと」
そして、きっと彼ならこう言うだろう。
「もっと。適当でいいんじゃない? 自分の思うようにやりなよ」
最後に瑞穂くんの目を見て、そう笑いかけた。
大きな黒い瞳が、揺らぐことなくあたしを見ている。
だけど、その口元は自然と緩んでいるようにも見えた。
「……兄ちゃんみたい、今のセリフ」
「へへ、日々お世話になってる千尋くんからの押し売りです」
「ふ、なんだそれ」