千尋くん、千尋くん
「最低なのかもしれないけど、今までは瑞穂がほしいって言うなら譲ってた。その子を手離しても、別に後悔とかもなかったし。それで瑞穂が喜ぶならって」
「………」
「だけど、今回はダメなんだ」
「……千尋、くん」
だんだんと引いてきた涙が、また溢れそうになる。
「分かんないけど。あるみだけは、誰にも譲れる気がしない」
「っ……」
「例え弟の瑞穂だろうと誰だろうと、あるみは俺だけのものでいてほしい」
そう言った千尋くんを、柔らかい月明かりが照らしていた。