千尋くん、千尋くん
「暑い? 寒い? クーラーつけよっか?」
「だ、大丈夫です……」
「そっか」
言われるまま、熾音さんの車である黒のワゴン車にの助手席に乗る。
同じく運転席に乗った熾音さんは、着ていたスーツを脱いでワイシャツになると、していたネクタイを少し緩めた。
千尋くんと似ているせいか、その流れるような動作がかっこよく見える。
「あれ、俺に見とれてた?」
「ち、ちがいますっ……」
「へへっ、冗談冗談」
そう言った熾音さんは、今日逢って初めていつもの柔らかい雰囲気を浮かべた。
そのおかげで少しだけ緊張がほぐれる。