千尋くん、千尋くん
「好きな人と離れるなんて考えたくもないと思うし、別れてくれなんて言わない」
「………」
「さっき言った通り、俺にとってあるみちゃんは本当の妹みたいに可愛いから、こんなこと言うのも本当に辛いんだ」
「………」
「だけど、やっぱりそれと同じだけ、俺にとっては千尋も瑞穂もすっげー可愛い弟なんだ」
ボーッとする視界の端で、ギュッと膝の上で拳を握りしめる熾音さんの手が目にはいる。
熾音さんは、本当にいい人だ。
あたしになんて気を使わずに、大切な弟のためにあたしを突き放してしまえばいい。
なのにそれをしてくれないのは、彼が本当に心から優しい人だからだ。
あぁ、だからか。
こんな優しい人のそばで育ったから、千尋くんも彼のように優しいんだ。