千尋くん、千尋くん
「おめでとう、あるみ」
将来、特に目指していることもなく、家から一番近い公立の高校を受験した。
合格発表の日、普通のサラリーマンのお父さんは仕事で。
わざわざあたしの合格発表のために会社を休んだお母さんと一緒に、掲示板を見に高校へ来ていた。
ものすごく頭が悪いわけでもなく、この高校の倍率もそれほど高くはなかったおかげか。
掲示板には、しっかりとあたしの受験番号である"239"の数字が表示されていて。
わざわざ会社まで休んだくせに、それほど騒ぐでもなく「おめでとう」と笑うお母さんの横で、あたしも口角を上げてニコリと微笑んだ。
その時、不意になったお母さんの携帯。
初期設定のまま変えていない、ピロロロと鳴るだけの機械音は、今もまだあたしの胸を不規則に動かす。