千尋くん、千尋くん
力の入らない指先で通話ボタンを押して、ゆっくりとそれを耳にあてる。
『家の前いるから、鍵開けな』
「……ヒメちゃん、それだけ聞いたらただの脅迫電話……」
そう呟きながら部屋の掛け時計を見ると、時刻は夕方の4時過ぎ。
どうやら、学校終えたヒメちゃんが真っ直ぐうちに来てくれたらしい。
「あ、あのね……ヒメちゃん。あたし今人に逢えるような顔じゃ……」
『平気平気。あるみの泣き顔って、なまずみたいで可愛いから』
「それって可愛いの……?」
できれば今日は誰にも逢いたくなかったのだけれど……せっかく家まで来てくれたヒメちゃんに悪いので、とりあえずベッドから立ち上がる。
何も食べていないせいか、一瞬よろけて転びそうになった体勢を、なんとか踏ん張って元に戻した。
落ち込んだあたし、力なさすぎる……。