千尋くん、千尋くん
伸びた黒髪
それから千尋くんとは、言葉ひとつ交わすことはなかった。
クラスは違えど学年は同じなので、度々学校で顔を合わせることも少なくなかったし。
バッタリトイレの前で鉢合わせしちゃったり、なんてこともあった。
だけど、その時は決まってあたしが避けるように逃げて……。
千尋くんとは、目すら合うことはなかった。
そして、人づてに聞いた。
千尋くんが、冬休みが始まる頃に転校するらしいと。
すごく曖昧な噂で、周りの人達もあたしに気を使ってか、あまりその話題は出さなかったけれど……。
事情を知ってるあたしは、千尋くんが瑞穂くんについていくことを決めたんだなと、またぼーっと教室から窓の外を眺めるだけだった。